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  • トラウマ

トラウマ体験は、あまりにも苦痛が強いため、意識的に処理することが困難です。
その結果、記憶は断片化され、潜在意識に封印されます。
これは心理的な防衛機制であり、心を守るための自然な反応です。
以前の記事では意識(表層意識と潜在意識)、脳の三層構造と意識と脳の対応関係について説明していますが、さらにトラウマを受けると、脳と意識にどのように影響を受けるかについてみていきます。

1.トラウマと脳が受けるダメージ

強いショックやストレスによる信号は、神経回路を通じて最終的に潜在意識の最深部に位置する視床下部へと到達します。視床下部は脳幹の上部に存在し、睡眠、摂食、生殖機能、自律神経の調整など、生命維持に関わる多様な機能を担う中枢です。

そのため、深刻なトラウマ体験を受けた際には、摂食障害、睡眠障害、自律神経失調症といった症状が、複合的に現れる可能性があります。

また、感情の中枢である扁桃体は過活動となり、怒りや不安といった情動が過剰に反応しやすくなります。一方で、記憶の統合を担う海馬は萎縮しやすく、記憶力や学習能力の低下が生じることもあります。

さらに、表層意識における理性の座である前頭葉の働きも低下するため、判断力や集中力といった認知機能の低下が見られることがあります。

このように、意識と脳の働きは相互に影響し合っており、トラウマによる脳機能の変化は、意識の質や自己認識にも深く関与するのです。

  脳の部位機能トラウマを受ける 症状と弊害   意識
前頭前野認知機能前頭前野の萎縮認知機能低下
頭がぼんやりする
ミスが増える
表層意識
偏桃体感情・情動偏桃体の膨張怒り、感情不安定潜在意識
(大脳辺縁系領域)
海馬短期記憶海馬の萎縮記憶力低下潜在意識
(大脳辺縁系領域)
視床下部自律神経系
(ホルモン、感情コントロール、睡眠、摂食、オキシトシン分泌)
様々な障害自律神経失調症
うつ病、パニック
睡眠障害
愛着障害
摂食障害
生理不順など
潜在意識
(脳幹領域

また、扁桃体、視床下部、海馬、側坐核といった脳の器官は、ドーパミンの放出に関与する報酬系回路、すなわち「A10神経回路」の主要な構成要素でもあります。

この回路は、快感・意欲・達成感などの報酬感情を生み出す神経系であり、人間の動機づけや行動の原動力となる重要な役割を担っています。

しかし、トラウマや慢性的なストレスによってこれらの器官の機能が低下すると、ドーパミンの分泌が減少し、報酬系の働きが鈍化します。その結果、以下のような症状が現れることがあります。

  • 無気力感
  • 意欲の低下
  • 喜びや達成感の喪失
  • 行動の停滞

このように、トラウマは報酬系の神経活動にも影響を及ぼし、心のエネルギー源ともいえる“やる気”を奪ってしまうのです。

2. 潜在意識に働きかける癒しの方法

潜在意識に刻まれたトラウマを癒すには、意識的な努力だけでは不十分です。いくら理性を使って思考を整理しようとしても、それは表層意識の領域にとどまり、無意識の深層には届きません。

潜在意識は、理性とは異なる“非言語的・感覚的”な領域であり、感情・イメージ・身体感覚を通じて働きかける必要があります。以下に、潜在意識にアクセスし、変容を促すための有効な方法を紹介します。

🌌 イメージ療法(ビジュアライゼーション)

心の中で、過去の記憶を「箱に入れて空に放つ」「光に包んで浄化する」などの象徴的なイメージを描くことで、潜在意識はそれを手放す準備を始めます。
このプロセスは、海馬に蓄積されたネガティブな記憶の再構成や置き換えを促し、感情の整理と解放につながります。

🧘‍♀️ 瞑想と呼吸法

深い潜在意識に入るには、呼吸と静寂の力が不可欠です。呼吸のコントロールには脳幹部が関与しており、呼吸を整えることは潜在意識を整えることでもあります。

また、脳幹部の縫線核から分泌される**セロトニン(安定・幸福感をもたらす神経伝達物質)**は、瞑想と呼吸法によって活性化されることが知られています。
これにより、情緒の安定と神経系の調整が自然に促されます。

💬 アファメーション(肯定的な言葉)

「私は安全である」「私は愛される価値がある」といった肯定的な言葉を、潜在意識下で繰り返し唱えることで、新たな信念が形成されていきます。
この繰り返しは、扁桃体の過活動を鎮め、前頭前野の自己肯定感を育てる神経回路を強化する働きがあります。

🎶 音声療法(1/fゆらぎ音など)

心地よい音楽や自然音(川のせせらぎ、風の音など)は、潜在意識を深める誘導装置として働きます。
特に「1/fゆらぎ」と呼ばれるリズムは、セロトニン分泌を促し、自律神経のバランスを整える効果があるとされています。

🏃‍♂️ 有酸素運動

脳の器官そのものを修復・強化するには、有酸素運動が不可欠です。運動によって分泌される**BDNF(脳由来神経栄養因子)**は、神経細胞の成長と再生を促進します。BDNFの働きにより、萎縮した海馬や前頭葉の機能回復が期待でき、記憶力や意欲の向上にもつながります。これは、トラウマによって傷ついた脳の構造を、身体の動きによって再生するプロセスとも言えるでしょう。

潜在意識とトラウマの関係は、目に見えない心の地層を探る旅です。
その旅は、時に苦しく、混乱を伴うかもしれません。
しかし、その奥には、癒しと変容の力が眠っています。
あなたがその旅を歩むとき、心の深層にある「本来の自己」が、静かに目覚め始めるでしょう。

まとめ

潜在意識に働きかける癒しの方法は、**理性ではなく感覚と繰り返しによって行われる“内なる旅”**です。それは、静けさの中で呼吸を感じ、言葉の力で信念を書き換え、音と動きで神経を整える、心と身体の統合的な再構築でもあります。こうしたアプローチは、トラウマの根を優しくほどき、自己の深層にある“安全とつながり”の感覚を取り戻す道となるのです。

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